8月第4土曜日。
暦は(暑さも峠を越えて後退し始める頃と言われる、)二十四節気・処暑(しょしょ)に入っていたが、車を降りると太陽の位置は高く、日差しは真夏のものだった。
ここは前橋から車で50分、隣県本庄市にある葬儀社の駐車場である。
告別式は11時30分開式と案内されていた。
この日から3日前、事務所に1通のFAXが届いた。
ダイキョー勇士会員の小柳氏が亡くなったという。
体調が今一つ思わしくないという噂を耳にはしていたが、あまりにも突然過ぎる知らせであった。
現実を受け入れてから、この日を迎えるまでに、私の記憶にある彼の思い出を辿ってみた・・・。
誠実な人柄と明晰な頭脳に加え、類稀(たぐいまれ)な行動力で、あっという間に社業を発展させた腕前には目を見張るものがあった。
そして、いつも笑顔で元気が良かった。
酒は飲まず、好物はアイスクリーム。
太田裕美の大ファンでドライブ好きなため、『コンサート会場がどんなに遠くても車で行っちゃうんですよ。』と嬉しそうに話していた。
その道中を想像すると・・・。
高速道路では気持ち良くアクセルを踏み込み、山道のカーブでは楽しそうにハンドルを捌(さば)き、休憩で立ち寄るパーキングやドライブインでは、ソフトクリーム売り場に駆け足で向かったのではないかと私は思っている。
8年前に行った勇士会の旅行では、いつの間にか臨時添乗員を買って出て、楽しい旅をリードしてくれた。
一泊した翌日の明け方、西伊豆の海岸沿いにコースを見つけ、約10キロのランニングをしたあと、朝食会場に現れたのには驚かされた。
すべてに全力でサービス精神に溢れ、おまけに『口八丁手八丁』な兄貴は、62年の人生をあっという間に駆け抜けてしまった。
『社長、だいぶ腹が出てきましたよ!』
『少し酒を控えて運動した方がいいですねぇ!』
祭壇の遺影が、笑顔で私に語り掛ける。
あの元気で明るい声のお説教は、もう聞くことが出来ない。