私の友人で、ゴルフ敵(がたき)のハギワラ氏は、赤城の麓で飲食店を経営している。
『バーベキューガーデン白水(はくすい)』。
避暑地を思わせる木立の中には、赤城白川の水を引き込んだ池があり、店名の由来となった。
池では釣りを楽しむことが出来、釣り上げたニジマスは、その場で塩焼きにしてくれる。
佇(たたずま)いからして、この店のトップシーズンは夏場であることがわかる。
実際、その季節の賑わいは大変なもので、最近では県外からも予約が入るらしい
創業者は現在の店主の父親だが、オフシーズンのことも考えていた。
池の畔(ほとり)のバーベキュー会場とは別に、100名近くが収容出来る宴会場が備わっていて、地域の忘年会や新年会、法事などにも利用される。
コロナ禍の3年間は、それらの行事も自粛される中、この店は営業を続けた。
それが出来たのには、ちゃんとした理由(わけ)があった。
店主は、修行を積んだ和食の職人である。
暖簾をくぐると7脚の椅子が並ぶカンターがあり、なじみの客の指定席となっている
この客達が、コロナ禍のオフシーズンを支えたのである。
その光景は、10年ほど前に放送されて映画にもなった小林薫主演のドラマ、『深夜食堂』に似ている。
・・・ドラマの舞台は店のカウンターで、ぽつぽつと集まった客が、料理をつまみながら酒を呑み、泣いたり笑ったりして、それぞれの時間を過ごす。
品書きは豚汁だけだが、その代わりにマスター役の小林薫が、『出来るものなら何でも作るよ。』という台詞(せりふ)どおり、客の注文には全て応えるのである。
・・・白水のカウンターに陣取ると、私はあのドラマの客になったような気分になる。
「目黒のサンマじゃないけど、あん肝は白水に限るねぇ。」
冬のある夜。
一合升を受け皿にしたコップ酒を飲みながら、大好物に舌鼓を打つ上機嫌な私を見ることが出来る。