「そうですか。」
「ところで先生はゴルフをされますか?」
『ええ、やりますよ。』
「もし、先生がこの状態だったら、プレーに復帰するのはいつ頃ですか?」
『そうですねぇ、11月の中頃くらいですかねぇ。』
9月の第4水曜日の昼前、診察室でのドクターと私の会話である。
・・・前日の夜。
「イテッ!」
私は自宅の片隅で小さく悲鳴を上げた。
この日、かねてから約束していたゴルフのあと、その仲間達と酒席が催された。
機嫌良く帰宅し、風呂に入った後の出来事だった。
パジャマに着替えて脱衣場を出た時、踏み出した右足を追いかける左足が壁の角にぶつかったのである。
29年間歩きなれた廊下の幅を、足の指2本分間違えた。
左足に目をやると、薬指が小指側に30度程傾いている。
「キミちゃん、足の指が曲がっちゃってるよ!」と叫ぶと、『うるさいなぁ。』と言いながら、わが家の実力者がリビングから出てきた。
『あれ、ホントだ。』
何か珍しい光景を見るような様子だった。
私は恐る恐る手を添えて、曲がった方向とは逆側にそっと力を加えた。
薬指は「コキン」という小さい音と共に、元に戻った。
『もう、酔っぱらってお風呂になんか入るからだよ、早く寝な!』
実力者は、薬箱から湿布薬を取り出してくると、五本の指を付け根から包み込むように貼ってくれた。
・・・翌朝。
薬指は小指側に戻っていた。
麻酔の役目をしていたアルコールが抜け、それ相応の痛みが始まり、足の甲も腫れていた。
午前中の予定を済ませたあと整形外科で診察を受けると、ドクターはレントゲンの画像を見ながら、『折れてますね。』と、あっさり言った。
そして、冒頭の会話へと続くのである。
ゴルフの解禁日は、ちょうどこのコラムが印刷される頃と重なる。