2011/03/01
その他
両親とコラム
先月、私の母が75歳で永眠しました。
このコラムにも、菓子職人だった父とともに、夫婦でよく登場してもらったものです。
当初、母は『そうやってねぇ、うちのことをあんまり書くんじゃないよ、わたしは恥ずかしくって、やだよ』と、あまり乗り気ではない様子でした。
しかし、いつからか、書き上がった原稿は家に持ち帰り、まずは彼女に読んでもらう習慣になっていました。
そんなある日、ちょっとからかうつもりで「おかあちゃん、ホントはこのコラム楽しみにしているんじゃないの」と聞いてみました。
すると意外にも『ああ、楽しみにいているよ』と素直に答えられ、かえってこちらが照れてしまったことを思い出します。
・・・子供の頃、私は作文が大の苦手で、一度もまともに仕上げた実績がなく、作品の完成を楽しみにしていた彼女はその度にがっかりしていたはずです。
それが今になって、息子の作文が毎月手元に届くことで、当時の不満が少しは解消されていたのでしょうか。
四十九年前、夫となった菓子職人を男にしてやろうというオトコっぽい決意のもと、必死に働き実を結んでいった過程は、彼女にとって宝物といってよい日々でした。
私は子供心に印象に残っている出来事をコラムに書いたのですが、たまたま彼女が大切にしていたそれらの時間と、ちょうど重なったようでした。
・・・コラムを読み終えた母が原稿を仏壇に供え、父の位牌に手をあわせ、何やら話しかけていました。
『和男もようやく作文が書けるようになりました、おとうさん、ありがとうございました。』
これには、一本取られた気がしたのを覚えています。
今月からは・・書き上がった原稿は、まず両親に揃って読んでもらうことになるのです。