「お迎えに行ってきます!」
会社での暑気払いで、こめかみをズキズキさせたお酒もようやく抜けた迎え盆の日。
今でこそ提灯を持って、わが家までご先祖様をお連れしてくる私ですが、まだ若いころはちょっと違いました。
・・・20歳の頃からの約10年間は、お盆休みになるのが本当に待ち遠しかったものです。
それは、高校を出て勤め始めた会社の社長から頂いたプレゼントがきっかけでした。
ある日、その社長は『吉沢くん、夏休みになったら家族で行って来たらいいよ。』と、避暑地の別荘を手配してくれたのです。
よろこんだ私は母親と弟を連れ、3人でその別荘に1泊させてもらいました。
そこでは米を研いでご飯を炊いて食事をしただけのことでしたが、最近になって母親に聞いてみると、『あたしはあの時うれしくてねぇ、お父さんの位牌を持って行って、久しぶりに家族4人でご飯を食べた気分になったものだよ』と言っていました。
父親が亡くなって数年で、まださみしさが残るわが家にとっては忘れられない思い出となったのです。
H社長、その節はありがとうございました。
楽しかったことは人に教えたくなるものです。
その翌年はテニスコートと大量の肉を準備し、友達を誘って、例の北軽井沢の別荘に繰り出したのです。
ここでのテニスとバーベキューが本当に楽しく、私が二十代の間はずっとこの遊びが続いたのでした。
したがって、その10年間、お盆休みの3日間は家にいた試しがありません。
最初の年は感動していた母親も、『おまえ、いつになったらうちにはお盆らしいお盆が来るんだい!』と怒り出したものです。
・・・こめかみの痛みが引けた私は送り盆までの四日間、毎日精進料理を仏壇に供え、母親が親戚回りに行くと言えば、その運転手を丸一日引き受け、彼女の言う『お盆らしいお盆』の演出に務めたのでした。(笑)